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2008年8月31日 (日)

蒸米重視派による戦前最後の酒造技術書

昭和初期に発生した「蒸米」を重視した酒造りの二大潮流。

一つは、鹿又親鑑定部長が率いた東京税務監督局鑑定部

ここからは、上原浩氏の師であった有松嘉一氏や平岡満一氏、杉山晋朔氏らを輩出しました。

もう一つは、中村政五郎

中村政五郎氏は丹波杜氏への影響力が強く、昭和5年に「蒸米から見た酒造」が出版された後には、灘の蔵元では、こぞって釜を大きくするといったように灘の酒造りへも影響を与えました。

そんな中、別の流れで、蒸米バカ技術者ともいうべき人物が登場します。

その名も「小出治彦」。

戦後に、岡山県で酒造りの指導に当たった小出巌氏の父。

戦前に最も評価の高かった酒米、赤磐雄町を産出した岡山県の工業試験所の先生です。

小出氏が昭和15年に今野商店出版部から発行した「経済酒造法」は、蒸米重視派による戦前最後の酒造技術書です。

Photo_2 この表紙がまた素晴らしい!

仕込桶の向こうに大海原。海に浮かぶ船は軍艦?あるいは輸送船?想像をかきたてられます。

第二章の「蒸きょう」に60ページ!を費やすという熱のいれよう、素敵です。

小出氏の主張するところは、蔵癖と言っているものの正体は蒸きょう方法の欠点にあり、ということです。

釜の容量、コマの規格、蒸気圧、蒸気温度、蒸きょう方法についての記述は、他の酒造技術書を凌ぐ細かい指示があり、確信に満ちています。

しかし、この本の記述には、現在の酒造には見られない謎があるのです。

同じく蒸米にこだわった杉山晋朔氏も首をかしげた謎については、後日ということで・・・。

とにかく、この本には、金言の数々がちりばめられているんですよね。

その一例として、

「製麹法のみに重点を置くより、蒸米の仕上げに重点を置き、理想の蒸米を造ったならば製麹は予想外に楽であって又糖化の持続性を発揮するものである。」

「毎日病気の治療に専念するより健康で明朗の日を送ることを研究した方が一番幸福でないかと思う。麹の病気直しよりも其前から病気の起こらぬ蒸米を造ることを研究しなさい、病気なんか考えずに健康増進を考えて置きなさい。」

「病気の起こらぬ蒸米」つまり「完熟蒸米」とは何であるかについても詳しく書いてあります。

この本が出版されたのが、昭和15年。

アルコール添加が始まる3年前のことでした。

本の名前が「経済酒造法」という名前なので、顧みられることがない酒造技術書ですが、酒造技術書の中でも著者の熱い思いが伝わってくる読み応えのある名著だと思います。

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